《メヌエット》

新刊が届きました。立原道造の詩による無伴奏混声合唱のための《メヌエット》です。わずか3ページの小品。

この曲が収められているのは、HARMONY FOR JAPAN Choral Collection Vol. 1というタイトルの合唱曲集。合唱楽譜の通信販売で有名なパナムジカの吉田健太郎氏が代表を務める一般社団法人 Harmony for JAPANが3.11後の日本のために作成した合唱曲集です。参加した出版社は日本からのカワイ出版、音楽之友社、全音楽譜出版社、パナムジカだけではなく、ドイツからBärenteiter Verlag、Breitkopf & Härtel、Carus Verlag、そしてイギリスからOxford University Press、フィンランドからSulasolという合唱でも有名な出版社。出版社は楽曲と版下を無償で提供しています。この活動のテーマは「愛・希望・未来」そして「祈り」。
作曲を打診された時、僕はあるラテン語の一節をテキストにする事を考え、実際に曲も作ったのですが、最終的には今回収録された立原道造の《メヌエット》をテキストに選びました。
この詩は立原道造の、(おそらくは)絶筆にあたる詩で、彼の詩としてはあまり知られていない方なのではないかと思います。ですが、3.11後に「変わらぬ日常」の尊さを改めて実感し、例年のように咲いた桜のニュースを特別な感慨を持って受け止めた僕が信じられる「愛・希望・未来」がこの詩の中に息づいている事から、テキストとして選びました。高校生の時に出会って以来ずっと気になっていた詩でもあります。

「春を 夢見てゐた」

この、ともすると通りすぎてしまうような言葉が、僕の胸に訴えてきました。

 

メヌエット

立原道造

やさしい鳥 やさしい花 やさしい歌
私らは 林のなかの 一軒家の
にほひのよい春を 夢みてゐた
鄙びた 古い 小唄のやうに

青い魚
光る果実
ながれる雲 星のにほひ
ちひさい炎

風が 語って 忘れさせてゆく
淡い色のついた春を 夢みてゐた
ひとつの 古い 物語のやうに……

夜空の星と 置洋燈の またたきが
祝つてくれた ひとつの ねがひ
優しい鳥 優しい花 優しい歌

 

曲は、77小節です。7は、広く幸福を象徴する数字。


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