吹奏楽シリーズ

5年ほど前でしょうか。日本楽譜出版社さんから、何か出版したら良さそうな作品があったら紹介して欲しいと相談されて、僕は「他の出版社でも出ているようなクラシックの有名曲ばかり出しても面白くないから、演奏人口も多いのに国内楽譜が殆ど出ていないクラシックの管楽合奏シリーズが良い!」と答えました。とは言っても、その時にはあまり色の良い反応は帰ってこず「まぁそのうち機会があったら」くらいの会話で有耶無耶になったのを覚えています。

昨年の年明け頃だったかにも、再び同じ質問をされました。僕の答えは5年前と同じだったのですが、今度は日を改めて会う約束になったので、その時には何十曲かの「存在しているのに殆ど無視されているクラシックの吹奏楽曲リスト」を携えて相談の場に行ったのです。そうしたらこの時には前回とは反応が違って、出版社としてはどんどん新しい分野にチャレンジをしていきたいと。これまでやってこなかったような曲も出していきたいと。そういう反応が返って来ました。

そこで、シリーズ化するならまず最初はこのあたりでしょうと僕が提案したのが「スーザ:星条旗よ永遠なれ」、「メンデルスゾーン:吹奏楽のための序曲」、「ヴァイル:小さな三文音楽」といったあたりだったのです(実はこの時は他にも何曲か提案しましたが、準備が進行中なので伏せておきます)。

それから一年ちょっと。楽譜の版下を作って(全てコンピュータ浄書です。メンデルスゾーンとスーザは僕が担当)、解説者に依頼して翻訳を作って、レイアウトをして、といった出版の準備を経て、ようやく形になりました。

 日本楽譜出版社の新シリーズ「吹奏楽」!

メンデルスゾーンの「吹奏楽のための序曲 & 管楽器のためのノクトゥルノ」スーザの「星条旗よ永遠なれ」クルト・ヴァイルの「小さな三文音楽」

実は企画を始めた段階では、クラシックや現代音楽の側にいる一人としてこれらの曲を楽譜やCDを通して知っているだけだったのですが、出版を準備するにあたってより詳しく調べてみると、これらの曲はどうやら土台になるような情報が(特に日本語圏で?)不足している曲らしいという事もわかってきました。

スーザの「星条旗よ永遠なれ」は、これほど有名な曲なのに実は編曲ばかりが流通していて、オリジナルの編成が殆ど顧みられていないこと。(余談ですが、スーザ指定ではピッコロがD♭管になっています。変ホ長調の曲にD♭管を使うと、記譜上の調号がシャープ2つになるんですね。フラット3つよりもシャープ2つのほうが明らかによく響く楽器の都合ともマッチしていて実に合理的!)

シェーンベルクの弟子であったヴァイルの小さな三文音楽は、著作権のためか演奏頻度は決して高くなかった曲のようだけれど、よく細部まで考えられていてポピュラー音楽的な意味でも、またシリアスな意味でも面白みに溢れた音楽であること(これも余談ですが、有名な「モリタート(マック・ザ・ナイフ)」を調べていて面白い発見がありました。後日書きます)。

メンデルスゾーンの「吹奏楽のための序曲」は、日本で出版されている本でも作曲年が間違っていたり、「2部形式」だと大嘘を書かれていたり(正解は序奏付きのソナタ形式)していましたが、彼の他の「序曲」にも比肩する内容。原型である「管楽器のためのノクトゥルノ」は15歳の時に書かれているのですが、「天才少年」の称号にふさわしく驚異的な仕上がりを見せています。いち作曲家としての僕はもうひれ伏しちゃいますね、あまりに充実していて。

この曲に関しては解説を担当することになったので、作曲上の秘密も少し種明かししておきました。解説の中では、他に今日の吹奏楽の原型となった「ハルモニームジーク」についても解説しています。管楽器音楽を語る上で「ハルモニームジーク」の存在は無視できないのだけど、手頃に充実した書物が見当たらなかったので。

 

こういった楽曲解説は、レッスンの中で口頭で喋るのには慣れていますが、出版される文章として書かせていただくのは僕にとってもはじめての経験でした。

特に吹奏楽の曲ということで、中高生もたくさん読んでくれることでしょう。だから、目指したのはやさしい語り口で、大事な内容を伝えること。それがどこまで成功しているかは読む方の判断にお任せしますが、作曲と同等に、あるいはそれ以上に腐心して、音楽に近づくために役立つ文章を志しました。

吹奏楽をやっている人に読んでもらいたいのはもちろん、吹奏楽には馴染みのない人にも、吹奏楽への架け橋として読んでいただきたいです。書いてあるのは純粋に音楽的な、あるいは音楽史的な内容です。

数日で店頭にも並び始めると思います。是非お買い求め下さい。


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