出版作品

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いのちがもし

無伴奏女声合唱のための「いのちが もし」にまつわる作曲のメモ。こういう見方もあるのだ、という紹介。

この曲は、日本合唱指揮者協会の創立50周年の記念で委嘱されたもので、依頼内容としては「合唱団に愛し歌われる曲」というようなものだったのですが、いわゆる「愛唱曲」でイメージされるような、ロマン派に根を持つ音楽のnarrativityから離れたところで作ってみました。かと言って前衛的なものを提出するわけではなく、普段歌い慣れているnarrativな音楽とそうではないものの狭間に位置するような曲を作ることで、合唱団の人が少し別の世界を体験できる機会になればと考えたものです。

テキストは、工藤直子さんの小説「ねこはしる」(童話社)の一部を、工藤さんの許可を得て使わせて頂きました。深謝。

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先日出版されたメンデルスゾーン作曲の「吹奏楽のための序曲」に続いて、僕が解説を担当したリムスキー=コルサコフ作曲「クラリネットと吹奏楽のためのコンツェルトシュトゥック」のミニチュアスコアが日本楽譜出版社から出版されました。パチパチパチ。

吹奏楽をやっていない人にはあまり知られていない事実かもしれませんが、リムスキー=コルサコフは海軍の軍楽隊を指導していた時期もあり、オリジナルの吹奏楽を3曲書き残しています。いずれも独奏楽器+吹奏楽という編成ですが、この「コンツェルトシュトゥック」はその中の一つというわけです。

「リムスキー=コルサコフ」と言えば今日でも繰り返し演奏されている人気曲も多く、立ち位置としては「大作曲家」と呼んでも差し支えない存在だと思いますが、今回この解説原稿を書くにあたって日本の現役出版物を見回してみると、意外とリムスキー=コルサコフの全体像や音楽史との関係を俯瞰しやすい手頃な書籍がない事に気づきました。

このあたりの事情は、先に書いたメンデルスゾーンの時も同じでしたが、リムスキー=コルサコフの場合には「ロシア音楽」という要素がいっそう事情を悪くしています。

なので、この解説はまず「そもそもロシア音楽って」という話から始まって、その中に生まれたリムスキー=コルサコフの立ち位置や創作の全体像が読めるような内容にまとめてみました。

単に曲の解説というだけのものよりは、「ロシア音楽とリムスキー=コルサコフ」というものをいろいろな要素と紐付しながら把握していけるような、そういう解説を目指したつもりです。

もちろん音楽の内容についても詳細に触れています。音符の並べ方の話はもちろん、管楽器なので、楽器の事情にもいろいろと言及。現代とは大違いなので、中高生の吹奏楽っ子が興味を持った時に誘導できるようにしておかないと。

上述のように日本語の資料が非常に乏しいのですが、さすがに原稿のためにロシア語を始めるまでの余裕は無かったので、英語とドイツ語の資料を駆使して書いています。ところで、リムスキー=コルサコフが自伝を書いていたのはご存知でしたか?

かつて邦訳も出てはいたのですが、この時にはまだ原本のロシア語も完全版が出版されていなかったので、日本語版はごく一部の抄訳のみ。大事な部分が隠されています。

これを読むと彼の視点を通してロシア五人組をはじめとする当時の周辺事情が実によく分かる!彼の几帳面な性格と客観的な観察態度もよくわかります。この自伝の成立事情についても解説の中で言及しましたが、しっかり研究するとだいぶ面白い論文が書けるのではないかと思います。

写真は、なんとか中古で取り寄せることに成功したドイツ語版。ボロボロでページが焼き芋の皮のように剥がれ落ちそうなのをなんとか読みました。

他にお世話になった資料で面白いものといえば、一冊まるごとバセットホルンの本でしょうか。どこの工房で何年に作られた楽器のキーはいくつあって内径は何センチでなんて情報や、バセットホルンのために作曲された作品の膨大な目録があったりと、バセットホルン愛好家には垂涎の的であろう一冊。こんな本が世の中に存在するんだなぁ。もっとも、ヴァイオリンやフルート、ピアノだったらこの種の本は情報量が多すぎて逆に作れない。

別にバセット・クラリネット愛好家でない僕は、おそらくこの解説を書く機会がなければこの本に出会うことは無かったでしょう。それもこれも見慣れぬ楽器を指定しているリムスキー=コルサコフのせいです。

あ、そうそう。リムスキー=コルサコフって名前になぜ「=」が入ってくるのかは知っていますか?英語で書くときもハイフンは欠かせません。Rimsky-Korsakovです。それからロシアの名前は〜ヴィッチで終わるものも多いですよね。ロシア文化に馴染んでいないとなかなかわかりにくい「名前のルール」も紹介しています。読めば飲み会のネタになるかもしれません。

 

小ネタのことはさておき、全体としては音楽全体を骨太に汲み取って頂ける解説になったのではないかと思います。吹奏楽人も、そうでない方も、是非お買い求め下さい。英訳付きです。

新刊が届きました。立原道造の詩による無伴奏混声合唱のための《メヌエット》です。わずか3ページの小品。

この曲が収められているのは、HARMONY FOR JAPAN Choral Collection Vol. 1というタイトルの合唱曲集。合唱楽譜の通信販売で有名なパナムジカの吉田健太郎氏が代表を務める一般社団法人 Harmony for JAPANが3.11後の日本のために作成した合唱曲集です。参加した出版社は日本からのカワイ出版、音楽之友社、全音楽譜出版社、パナムジカだけではなく、ドイツからBärenteiter Verlag、Breitkopf & Härtel、Carus Verlag、そしてイギリスからOxford University Press、フィンランドからSulasolという合唱でも有名な出版社。出版社は楽曲と版下を無償で提供しています。この活動のテーマは「愛・希望・未来」そして「祈り」。
作曲を打診された時、僕はあるラテン語の一節をテキストにする事を考え、実際に曲も作ったのですが、最終的には今回収録された立原道造の《メヌエット》をテキストに選びました。
この詩は立原道造の、(おそらくは)絶筆にあたる詩で、彼の詩としてはあまり知られていない方なのではないかと思います。ですが、3.11後に「変わらぬ日常」の尊さを改めて実感し、例年のように咲いた桜のニュースを特別な感慨を持って受け止めた僕が信じられる「愛・希望・未来」がこの詩の中に息づいている事から、テキストとして選びました。高校生の時に出会って以来ずっと気になっていた詩でもあります。

「春を 夢見てゐた」

この、ともすると通りすぎてしまうような言葉が、僕の胸に訴えてきました。

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5年ほど前でしょうか。日本楽譜出版社さんから、何か出版したら良さそうな作品があったら紹介して欲しいと相談されて、僕は「他の出版社でも出ているようなクラシックの有名曲ばかり出しても面白くないから、演奏人口も多いのに国内楽譜が殆ど出ていないクラシックの管楽合奏シリーズが良い!」と答えました。とは言っても、その時にはあまり色の良い反応は帰ってこず「まぁそのうち機会があったら」くらいの会話で有耶無耶になったのを覚えています。

昨年の年明け頃だったかにも、再び同じ質問をされました。僕の答えは5年前と同じだったのですが、今度は日を改めて会う約束になったので、その時には何十曲かの「存在しているのに殆ど無視されているクラシックの吹奏楽曲リスト」を携えて相談の場に行ったのです。そうしたらこの時には前回とは反応が違って、出版社としてはどんどん新しい分野にチャレンジをしていきたいと。これまでやってこなかったような曲も出していきたいと。そういう反応が返って来ました。

そこで、シリーズ化するならまず最初はこのあたりでしょうと僕が提案したのが「スーザ:星条旗よ永遠なれ」、「メンデルスゾーン:吹奏楽のための序曲」、「ヴァイル:小さな三文音楽」といったあたりだったのです(実はこの時は他にも何曲か提案しましたが、準備が進行中なので伏せておきます)。

それから一年ちょっと。楽譜の版下を作って(全てコンピュータ浄書です。メンデルスゾーンとスーザは僕が担当)、解説者に依頼して翻訳を作って、レイアウトをして、といった出版の準備を経て、ようやく形になりました。

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なんとここでのお知らせをすっかり失念していました。

既に5ヶ月経ってしまいましたが、2011年3月に音楽之友社から合唱の新刊「おれは歌だ おれはここを歩く 〜アメリカ先住民の三つの詩」が発売されました。混声合唱とピアノのための作品です。

現在は平凡社ライブラリーに収められている金関寿夫さん翻訳の「アメリカ・インディアンの口承詩―魔法としての言葉」 に収められた詩から

  • 狩りの歌 (ナバホ族の口承詩)
  • ホピの子守唄 (ホピ族の口承詩)
  • 敵の死を願う呪文の歌 (チェロキー族の口承詩)

の3篇に作曲しています。

2004年に作曲。名島啓太先生の指揮する混声合唱団鈴優会によって初演されました。

おれは歌だ おれはここを歩く

当時主に考えていたのは、(1)ダイアトニックな機能調性の上に歪められた調的響きを盛り込む事と、(2)合唱の、集合体としての声で発散力ないし吸引力の強いエネルギーある表現を呼び込むこと。

例えば1曲目では嬰ハ短調にニ短調が混ざったような音階を作って全体を統一しています。「鹿がおれの歌ごえをきいてやってくる」と歌う合唱の変な音階の上り下がりが最初の発想。

2曲目では嬰ヘ短調とニ短調の間を揺れ動く子守唄が、やがて調性の境界線を超えた響きへと広がっていきます。

3曲目では打楽器的性格を強めたピアノパートと対峙する合唱が、足踏みも交えながら身体表現としての声のエネルギーを高い緊張度でつないでいきます。合唱団が作る「音とりMIDI」と実演との印象の乖離がとても広い曲。生演奏での体験を強くお奨めします。

コンクールでも使いやすいでしょうし、演奏会で取り上げてもお客さんに強い印象を残せる曲です。情緒的に歌っているだけでは全く形にならず、器楽的な発想で楽譜を眺める必要が出てくる、という点では合唱団の表現の幅を広げる経験としても有効でしょう。

高校生・大学生を中心とした若い声の合唱団、中人数・大人数の合唱団に向いています。是非楽器店、書店等でご覧ください。Amazonでお求めの方はこちら

新刊楽譜「上を向いて歩こう」のフルート三重奏編曲楽譜がトリプ・カンパニーから発売になります。作曲者はもちろん中村八大さん。

2つのバージョンが入って、パート譜つき。定価は1, 500円+税です。

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