先日出版されたメンデルスゾーン作曲の「吹奏楽のための序曲」に続いて、僕が解説を担当したリムスキー=コルサコフ作曲「クラリネットと吹奏楽のためのコンツェルトシュトゥック」のミニチュアスコアが日本楽譜出版社から出版されました。パチパチパチ。
吹奏楽をやっていない人にはあまり知られていない事実かもしれませんが、リムスキー=コルサコフは海軍の軍楽隊を指導していた時期もあり、オリジナルの吹奏楽を3曲書き残しています。いずれも独奏楽器+吹奏楽という編成ですが、この「コンツェルトシュトゥック」はその中の一つというわけです。
「リムスキー=コルサコフ」と言えば今日でも繰り返し演奏されている人気曲も多く、立ち位置としては「大作曲家」と呼んでも差し支えない存在だと思いますが、今回この解説原稿を書くにあたって日本の現役出版物を見回してみると、意外とリムスキー=コルサコフの全体像や音楽史との関係を俯瞰しやすい手頃な書籍がない事に気づきました。
このあたりの事情は、先に書いたメンデルスゾーンの時も同じでしたが、リムスキー=コルサコフの場合には「ロシア音楽」という要素がいっそう事情を悪くしています。
なので、この解説はまず「そもそもロシア音楽って」という話から始まって、その中に生まれたリムスキー=コルサコフの立ち位置や創作の全体像が読めるような内容にまとめてみました。
単に曲の解説というだけのものよりは、「ロシア音楽とリムスキー=コルサコフ」というものをいろいろな要素と紐付しながら把握していけるような、そういう解説を目指したつもりです。
もちろん音楽の内容についても詳細に触れています。音符の並べ方の話はもちろん、管楽器なので、楽器の事情にもいろいろと言及。現代とは大違いなので、中高生の吹奏楽っ子が興味を持った時に誘導できるようにしておかないと。
上述のように日本語の資料が非常に乏しいのですが、さすがに原稿のためにロシア語を始めるまでの余裕は無かったので、英語とドイツ語の資料を駆使して書いています。ところで、リムスキー=コルサコフが自伝を書いていたのはご存知でしたか?
かつて邦訳も出てはいたのですが、この時にはまだ原本のロシア語も完全版が出版されていなかったので、日本語版はごく一部の抄訳のみ。大事な部分が隠されています。
これを読むと彼の視点を通してロシア五人組をはじめとする当時の周辺事情が実によく分かる!彼の几帳面な性格と客観的な観察態度もよくわかります。この自伝の成立事情についても解説の中で言及しましたが、しっかり研究するとだいぶ面白い論文が書けるのではないかと思います。
写真は、なんとか中古で取り寄せることに成功したドイツ語版。ボロボロでページが焼き芋の皮のように剥がれ落ちそうなのをなんとか読みました。
他にお世話になった資料で面白いものといえば、一冊まるごとバセットホルンの本でしょうか。どこの工房で何年に作られた楽器のキーはいくつあって内径は何センチでなんて情報や、バセットホルンのために作曲された作品の膨大な目録があったりと、バセットホルン愛好家には垂涎の的であろう一冊。こんな本が世の中に存在するんだなぁ。もっとも、ヴァイオリンやフルート、ピアノだったらこの種の本は情報量が多すぎて逆に作れない。
別にバセット・クラリネット愛好家でない僕は、おそらくこの解説を書く機会がなければこの本に出会うことは無かったでしょう。それもこれも見慣れぬ楽器を指定しているリムスキー=コルサコフのせいです。
あ、そうそう。リムスキー=コルサコフって名前になぜ「=」が入ってくるのかは知っていますか?英語で書くときもハイフンは欠かせません。Rimsky-Korsakovです。それからロシアの名前は〜ヴィッチで終わるものも多いですよね。ロシア文化に馴染んでいないとなかなかわかりにくい「名前のルール」も紹介しています。読めば飲み会のネタになるかもしれません。
小ネタのことはさておき、全体としては音楽全体を骨太に汲み取って頂ける解説になったのではないかと思います。吹奏楽人も、そうでない方も、是非お買い求め下さい。英訳付きです。