久しぶりに武満徹のスコアを買ってきました。
語りとオーケストラのための「系図」ー若い人たちのための音楽詩ーです。
語りに使われている詩は谷川俊太郎さんの「はだか」からの6篇。今年の2月になってひっそりと出版されていたのを最近見つけたんです。行きつけの池袋ヤマハは新刊の入荷が異様に遅いので(発売後1ヶ月以上経ってから入荷する事が多い)、たまたま銀座のヤマハに行った時に発見。音楽之友社や全音の新刊はホームページでチェックしてるけど日本ショットのページは滅多に見ないからなぁ。
この「系図」、かつて大好きだったんです。今も好きだけど。10年前、ちょうど大学受験をしている時に武満さんが亡くなって、作曲少年のご多分に漏れず武満教信者だった僕はショックを受けたわけですが、少し経ってからテレビで流れた特集番組の中でこの「系図」の存在を知るわけです。最初に聴いた時から強く惹き付けられました。更に少し経ってから発売された追悼盤CDにはじめて録音が収められたのですぐに購入して、それから数ヶ月間は、25分くらいかかるこの曲を毎日2回くらいは聴いていました。
60年代の武満さんの作品も当然知っていましたが、特に青少年用に書かれた曲とは言え、あの60年代の高密度な厳しい作風の武満さんが晩年にこんなにわかりやすくて豊穣な世界に行き着いた事にとても大切な意味があるように思えたので、部分的に耳コピしたり、一音も漏らすまいと覚えるくらいに聴き込んだものです。
初期の作品でサラベールから出版されている何曲かを除いて、武満さんの作品は全て日本ショットから出版される契約になっていた事は知っていたし、これだけわかりやすい武満作品なら売り上げも期待出来るはず。だからきっと早々にスコアが出版されるものと思いました。が、期待に反して「系図」のスコアは全然出版されない。しびれをきらして日本ショットに電話をかけて「出版の予定はないんですか?」と質問した事まであります。それも1年おきに3回くらいは(笑)。そのたびにショットの担当の人は「いま出版に向けて準備を進めていますので、もうしばらくお待ち下さい」と言っていました。
で、その「もうしばらく」が10年かかってしまったわけですね。今や僕の「系図」への想いも相当薄れてしまいました。思えば遠くへ来たもんだ。でも、楽譜が出たらやっぱり買いたい。楽譜を読んで曲の秘密を探ってみたいので、今日の購入となりました。で、家に帰ってまずやりたかったのはCDを流しながら楽譜を順にめくる事。
ところが!系図が入っているあのCDが見当たりません。まさか捨てるはずもないし、探せる限り探しても見つからない。結局今日のところはCDを諦めて楽譜をつぶさに読みふけっていました。
聴き込んだだけあって、意外に音色の実感が耳の奥に残っていました。やっぱり美しい曲だった。今日の収穫は2つ。
1つはオーケストレーションの素晴らしさの理由がわかった事。これが隠し味だったんだね、という所をいっぱい確認。
もう1つは、CDの演奏で「ゆれ」だと受け止めていたテンポの変化が、正確な記譜でコントロールされていた事です。作曲の人も見ているので細かい事を書きますが、小節1つで取るような早い4分の3拍子を設定して、その中で4分音符3つの小節、付点4分音符2つの小節、という具合にタイムを操作して結果的に頻繁にpoco accel.とpoco rit.を繰り返しているような効果を作り出しています。てっきり8分音符だと思っていた音が4分音符で書かれていたのは大きな発見でした。
8分音符で同様の操作をしようとしても、見た目の変化が複雑になりすぎるので、4分音符で書いた意味合いは大きいです。そういえばストラヴィンスキーが同じような事を語っていました。どの演奏を聴いても同じようにアゴーギクがついていた理由がやっとわかりました。ただ先例追従していたわけではないようです。
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